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COVID-19論文 アップデート 2020.11.26 報

【ワクチン】

P3臨床試験終了・承認間近のワクチン

発表日11/911/1611/23
名称BNT162b2mRNA-1273AZD1222
メーカー米ファイザー 独バイオンテック米モデルナ 米国立アレルギー・感染症研究所英アストラゼネカ 英オックスフォード大
種類mRNAワクチンmRNAワクチンDNAワクチン チンパンジーアデノウイルスベクター
P3試験被検者数約44000人約30000人約24000人
有効性95% 94% (65歳以上の高齢者)94.5%70.4% 標準接種量2回: 62%半量+標準接種量: 90%
有効性の詳細感染者 ワクチン接種群8人 プラセボ群162人 重症患者 ワクチン接種群1人 プラセボ群9人 → 重症化も防ぐ?感染者 ワクチン接種群5人 プラセボ群90人 重症患者 ワクチン接種群0人 プラセボ群11人 → 重症化も防ぐ?感染者 ワクチン接種群30人 プラセボ群101人 重症患者 ワクチン接種群0人 → 重症化も防ぐ?  
有害事象2回目接種後の強い疲労感 (3.7%)  
保存温度-70~-80℃-20℃4℃
薬価(推定)約2000円3500~4000円約420円
日本政府との契約1億2000万回分5000万回分1億2000万回分
  1. Sun W, et al. Newcastle disease virus (NDV) expressing the spike protein of SARS-CoV-2 as a live virus vaccine candidate [published online ahead of print, 2020 Nov 21]. EBioMedicine. 2020;62:103132. doi:10.1016/j.ebiom.2020.103132 米マウントサイナイ医科大学
  2. ニューカッスル病ウイルスベクターを用いたCOVID-19ワクチンのマウス実験

※ ニューカッスル病(ND): ニューカッスル病ウイルスによる鳥類の感染症で、感染力が非常に強く養鶏業界に最も恐れられている

  • ニワトリ有精卵で高力価に増殖させることが可能
  • マウスに高力価の中和抗体を誘導、SARS-CoV-2感染に対する予防効果

【治療薬】

  1. Udwadia ZF, et al. Efficacy and Safety of Favipiravir, an Oral RNA-Dependent RNA Polymerase Inhibitor, in Mild-to-Moderate COVID-19: A Randomized, Comparative, Open-Label, Multicenter, Phase 3 Clinical Trial. Int J Infect Dis. 2020;S1201-9712(20)32453-X. doi:10.1016/j.ijid.2020.11.142
  2. インドGlenmark Pharmaceuticals社のP3試験 (多施設共同, ランダム化, オープンラベル)
  3. 18~75才の軽症~中等症患者150人

① 経口ファビピラビル (商品名: アビガン) + 標準対症療法: 75人

② 標準対症療法のみ: 75人

  • ウイルス陰転までの期間 (中央値): ① 5日 vs ② 7日(P = 0.129)
  • 臨床的治癒までの期間 (中央値): ① 3日 vs ② 5日(P = 0.030) 有意に改善

※ 臨床的治癒の定義: 解熱(腋窩温度≤36.6°C)、呼吸数の回復 (≤20呼吸/分)、酸素補給なしで酸素飽和度≥95%、咳の軽減 (軽度または咳なし) が72時間以上持続

  • Chen H, et al. First clinical study using HCV protease inhibitor danoprevir to treat COVID-19 patients. Medicine (Baltimore). 2020;99(48):e23357. doi:10.1097/MD.0000000000023357
  • C型肝炎ウイルスプロテアーゼ阻害薬ダノプレビル+リトナビルの対COVID-19オープンラベル試験
  • 最初のウイルス陰転まで中央値2日(1~8日)
  • 治療開始後4~12日で被検者11人全員退院
  • Wang Y, et al. Investigation of the Potential Mechanism Governing the Effect of the Shen Zhu San on COVID-19 by Network Pharmacology. Evid Based Complement Alternat Med. 2020;2020:8468303. doi:10.1155/2020/8468303
  • Shen Zhu San (参术散?= 熟地黄、白芍、当归、川芎、人参、白术、半夏、陈皮、甘草) のネットワーク薬理学
  • 有効成分116種類を同定
  • そのターゲットタンパク質627種類を同定、免疫細胞・組織に多く存在するタンパク質が多い
  • 薬理効果は4つに収束: サイトカインストームの抑制、肺胞毛細血管関門 (血液空気関門) の保護、免疫調節、細胞の生存・死の制御
  • Samuel RM, et al. Androgen Signaling Regulates SARS-CoV-2 Receptor Levels and Is Associated with Severe COVID-19 Symptoms in Men. Cell Stem Cell. 2020;S1934-5909(20)30547-6. doi:10.1016/j.stem.2020.11.009
  • アンドロゲン (男性ホルモン) シグナルを阻害するとACE2が減少しSARS-CoV-2の感染が低下
  • アンドロゲンの高い男性はCOVID-19の感染リスク・重症化リスクが増加する
  • 男性の高い重症化率や、AGAとの関係を説明できる?
  • アンドロゲンのシグナルを抑制する予防薬・治療薬の可能性
  • Seeland U, et al. Evidence for treatment with estradiol for women with SARS-CoV-2 infection. BMC Med. 2020;18(1):369. doi:10.1186/s12916-020-01851-z
  • 17β-エストラジオール (女性ホルモン) はACE2の発現を調節する
  • 17β-エストラジオールは、女性ホルモン補充療法として更年期障害の治療に使われている
  • COVID-19女性患者37,086人→15-49才 (閉経前年齢) 群と≥50才 (閉経周辺・閉経後年齢) 群
  • ≥50才女性患者で17β-エストラジオール使用者の死亡リスクは70%以上低い
  • 15-49才女性患者では死亡リスクは17β-エストラジオール使用・未使用に関係ない(自前で産生するエストラジオールが多いので)
  • 女性の低い重症化率を説明できる? 17β-エストラジオールを予防薬・治療薬とする可能性

【その他】

  • Gold JE, et al. Analysis of Measles-Mumps-Rubella (MMR) Titers of Recovered COVID-19 Patients. mBio. 2020;11(6):e02628-20. doi:10.1128/mBio.02628-20
  • MMRグループ50人: MMRワクチン接種により十分な抗MMR抗体を持っている

対照グループ30人: MMRワクチン接種以外の理由(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹の感染歴など)で十分な抗MMR抗体を持っている

  • MMRグループで、流行性耳下腺炎ウイルスに対する抗体力価とCOVID-19重症度との間に有意な逆相関

無症状者の力価: 134~300 AU/ml

軽症者の力価: ~134 AU/ml

中等症者: ~75 AU/ml

入院・要人工呼吸器者: ~32 AU/ml

  • 対照グループでは流行性耳下腺炎ウイルスに対する抗体力価とCOVID-19重症度との間に相関はない
  • どちらのグループでも麻疹・風疹ウイルスに対する抗体力価とCOVID-19重症度との間に相関はない
  • MMRに由来する抗流行性耳下腺炎ウイルス抗体がCOVID-19の重症化リスクを下げる
  • 6/19 Fidel PL Jr, et al. mBio. 2020;11(3):e00907-20.

弱毒生ワクチンが自然免疫を訓練・増強し、COVID-19の感染・重症化・死亡リスクを下げるのに役立つ可能性がある その候補としてMMRワクチンを提示

  • 9/7 Larenas-Linnemann DE, et al. Allergy. 2020;10.1111/all.14584.

数週間以内にMMRワクチンを接種したCOVID-19患者36人は全員軽症(PCR陽性だが無症状~重度な風邪症状・酸素補給は不要)

  • Iesa MA, et al. SARS-COV2 and P. falciparum common immunodominant regions may explain low COVID-19 incidence in the malaria-endemic belt. New Microbes New Infect. 2020;100817. doi:10.1016/j.nmni.2020.100817
  • マラリア流行地域ではCOVID-19発生率が統計的に有意に低い
  • そのメカニズムの一部を解明

マラリア原虫Plasmodium falciparumに感染→P. falciparumのTRAPタンパク質に対する免疫応答・・・→SARS-CoV-2に感染→SARS-CoV-2のNタンパク質・Orf1abタンパク質に対する交差反応→SARS-CoV-2感染に対する免疫

  • Murakami S, et al. Detection and Characterization of Bat Sarbecovirus Phylogenetically Related to SARS-CoV-2, Japan. Emerg Infect Dis. 2020;26(12):3025-3029. doi:10.3201/eid2612.203386
  • 2013年に岩手県の洞穴で捕獲したコキクガシラコウモリからコロナウイルスの遺伝子を検出
  • ウイルスゲノム全長の塩基配列を決定→SARS-CoVやSARS-CoV-2と同じベータコロナウイルス属サルベコウイルス亜属
  • 特にSARS-CoV-2と系統的に近縁
    最も近いSARS-CoV-2株と塩基配列が81.47%一致
  • スパイクタンパク質はコキクガシラコウモリのACE2と結合するが、ヒトのACE2とは結合しない

※ このウイルスがすぐにヒトに感染するように変異するというわけではない

  • Pormohammad A, et al. Zinc and SARS‑CoV‑2: A molecular modeling study of Zn interactions with RNA‑dependent RNA‑polymerase and 3C‑like proteinase enzymes. Int J Mol Med. 2020;10.3892/ijmm.2020.4790. doi:10.3892/ijmm.2020.4790
  • 亜鉛がSARS-CoV-2の増殖に重要な酵素 (RNA依存性RNA合成酵素とメインプロテアーゼ) に結合する
  • 結合部位は酵素活性に影響する可能性がある
  1. Desterke C, et al. Molecular investigation of adequate sources of mesenchymal stem cells for cell therapy of COVID-19-associated organ failure. Stem Cells Transl Med. 2020;10.1002/sctm.20-0189. doi:10.1002/sctm.20-0189
  2. 骨髄・脂肪組織・臍帯由来間葉系幹細胞ではACE2が強く発現している
  3. 胎盤由来間葉系幹細胞・ヒトES細胞、ヒトiPS細胞ではACE2の発現は非常に低いレベル
  4. 11/20アップデートで紹介した論文の結果と一致しない

Avanzini MA, et al. Human mesenchymal stromal cells do not express ACE2 and TMPRSS2 and are not permissive to SARS-CoV-2 infection. Stem Cells Transl Med. 2020;10.1002/sctm.20-0385. doi:10.1002/sctm.20-0385

  • 羊膜・臍帯血・臍帯・脂肪組織・骨髄由来の間葉系幹細胞はACE2とTMPRSS2を発現していない
  • SARS-CoV-2野生株に暴露しても細胞変性効果(感染の証拠) を示さない
  • 間葉系幹細胞はSARS-CoV-2に感染性はなく細胞移植に用いても安全である